イチローへの違和感

イチロー外野手の今大会での言動に対する違和感が多くのメディアで語られる。多くは称賛を伴った違和感だ。
日刊スポーツの記事。

これまでのイチローのイメージは「孤高」や「クール」。それが今大会では一転、積極的にインタビューに応じ、喜怒哀楽を率直に表現した。韓国に敗れた時は「野球人生でもっとも屈辱的な日」、準決勝で勝った時は「本当に気持ちいいですね。本当にしゃくに障りましたからね」など、今までは想像もできないほど感情をむき出しにした言葉もあった。代理店関係者は「人間らしさが出て、身近に感じたファンが多い。間違いなく、CMのオファーが湯水のようにくる。CM界にまた、イチローブームがやってくる」とみる。

一方で従来のクールで孤高の人という感じのイチロー外野手が好きだった人からすると、いささか熱いイチローが「?」という感じになっているのだろうと思う。
私は半々だ。クールで孤高、マスコミに背を向けるイチロー外野手が好きだった。だから感情をむき出しにするイチロー外野手にマイナスの違和感を感じる気持ちはよくわかる。
しかしインタビュー番組で話すイチロー外野手は意外と冗舌だ。松井秀喜外野手とのインタビュー番組でも結構軽口をたたいていた。気に入った相手だとかなりよく話すのだ。松井外野手の方が少しひいていた感じだ。佐々木主浩氏との番組ではお互い気心の知れた関係だけあって、大変はしゃいでいた。意外とはしゃぐ人なのだろう。「孤高」「クール」というのはマスコミが作り上げた虚像であるかもしれない。伊良部秀輝氏がそうだったようだ。マスコミ嫌い。こわもて。しかし逸話もあって、甲子園でファンが伊良部氏にサインをこわごわ頼んだら、にこやかにサインに応じていたらしいし、チームメイトにはきさくで、話しやすい先輩だったそうだ。実際練習風景を見たことがあるが、井川慶投手をつかまえて、ずっといろいろ話をしていた。長嶋茂雄氏と仰木彬氏に関しては逆にいつもにこにこ、ベンチが楽しい、というイメージを作っていたようだ。槙原寛己氏と木田優夫投手が否定していた。彼等ほどの大監督がいつもにこにこ、楽しい能天気ではチームを引っ張れないではないか。マスコミの前ではにこにこだろうが、実際はこわいところもあるはずなのだ。
イチロー外野手の場合の裏表は、表はクールで孤高、裏はおもろい兄ちゃん、というところだったのだろう。その裏の面が表に出てきた。表のイチロー外野手がいまいち、と思っていた人はイチロー外野手の裏を見て好感度を高め、表のイチロー外野手を見て「いい」と思っていた人は裏の顔を見て違和感を感じるのだ。
しかしイチロー外野手のイメージが大きく変わったのはそういう理由だけではないような気がする。あくまでもブラウン管越しの感想でしかないが、イチロー外野手自身かなりぎこちないのだ。実はかなりチームのために、意識して熱血ぶりをアピールしていたのではないか、という気がする。それを裏付けるスポーツ報知の記事。

チーム結成以来、宮本の元には、複数のメンバーから嘆きが届いた。「何とかチームをまとめてほしいんです」主将不在だったチームを引っ張る力を期待する要望だった。だが、宮本は自分で動くことを避けた。「イチローに、引っ張っていけという話は良くしましたよ」大リーガーとして参加を決意したイチローこそが、チームリーダーと判断。「みんなイチローさんに最初は遠慮があったんですけど、そのうちイチローさんの方から進んで会話してくれて、プレーで引っ張ってくれて、それで一丸になる雰囲気が出てきました」福留が証言するように、宮本の狙いは当たった。

これを見る限り、当初イチロー外野手はチームを自分がまとめる気はなかったように思える。宮本慎也内野手谷繁元信捕手に対する遠慮もあっただろうが、そもそも兄貴分気質ではないのだろう。一方でイチロー外野手が人一倍ストイックな人物であることには異論はないだろう。イチロー外野手は単に地をさらけ出しただけではないだろう。さらけ出す地を、チームのために作り上げ、熱血イチローを演じたのではないだろうか。イチロー外野手の努力は報われた。執念に今一つ欠けた日本は勝利へのあくなき執念をつかみ、栄冠を手にしたのだ。日本優勝の最大の立役者がイチロー外野手であることは、誰しも疑わないであろう。そのためにイチロー外野手が払った自己変革の努力に、私は着目したかったのだ。