『看聞日記』に見る鮭と昆布

永享八年五月九日条に以下の記事がある。

永享八年五月
九日、晴、源宰相伏見へ下。明堯禅門廿五年忌為仏事、蔵光菴七ヶ日可看経云々。於菴作善執行。南御方自今日精進断酒也。自公方鱸魚五、鮒鮨(魚編に离)三桶、菱食一給。東御方申次則賞翫。永基朝臣持経祗候。一献之間三条中納言参。何事乎忩対面。公方為御使昆布・干鮭公事可致知行之由御内書持参。不存寄且迷惑且祝着珍重無極。先以詞御返事申。殊更三献勧之退出。則重賢為使三条へ遣。御剣進之。猶猶祝着喜悦之次第以状令申。則被披露云々。南御方軈御所へ参。御折紙〈三千疋〉、上様〈二千疋〉進之。目出之由被申。軈被帰。折紙ハ返給。重雖進只今御礼枝葉之由奉返給之間、此上者留了。三条参之礼太刀〈革袋金巾〉以重賢遣之。祝着之由被返事。抑此御領ハ常磐井宮当知行之地也。就此地自去年公方不快之子細被召放、此方へ給。旁以御意之趣喜悦千万也。源宰相忩可帰参之由、伏見へ人を遣。

九日、晴、源宰相(田向経良)伏見へ下る。明堯禅門(庭田経有)廿五年忌仏事の為、蔵光菴七ヶ日看経すべしと云々。菴に於いて作善を執行す。南御方(庭田幸子)今日より精進断酒也。公方(足利義教)より鱸魚五、鮒鮨三桶、菱食一給わる。東御方(栄仁親王室)申し次ぎ、則ち賞翫す。永基朝臣、持経祗候す。一献の間三条中納言(三条実雅)参る。何事か、忩ぎ対面す。公方御使として昆布・干鮭公事知行致すべきの由、御内書持参す。存じ寄らず且つうは迷惑且つうは祝着珍重極まりなし。先ずは詞を以って御返事申す。殊更三献之を勧め退出す。則ち(庭田)重賢を使として三条へ遣わす。御剣これを進む。なおなお祝着喜悦の次第状を以って申さしむ。則ち披露せらると云々。南御方やがて御所へ参る。御折紙〈三千疋〉、上様(義教側室の上臈局)〈二千疋〉これを進む。目出の由申さる。やがて帰らる。折紙は返し給ふ。重ねて進むと雖もただいま御礼枝葉の由、返し奉り給ふの間、此上は留めおわんぬ。三条参るの礼の太刀〈革袋金巾〉は重賢を以ってこれを遣わす。祝着の由返事せらる。そもそもこの御領は常磐井宮(直明王)当知行の地なり。この地に就いて去年より公方不快の子細召し放たれ、此方へ給わる。旁以って御意の趣喜悦千万なり。源宰相いそぎ帰参すべきの由、伏見へ人を遣わす。

人名はとりあえずの考察。
田向経良(?)ー宇多源氏、同じ宇多源氏の綾小路、庭田とともに伏見宮家に仕えていた。
庭田経有(?ー1412)ー宇多源氏、姉が崇光院の内侍で栄仁親王を生んで以降、伏見宮家の家司となる。南御方こと庭田幸子の父に当たる。
庭田幸子(1390ー1448)ー敷政門院、貞成親王の妻。後花園天皇の生母。
東御方(1368ー1441)ー内大臣三条実継の娘。栄仁親王の女房。このころは義教に仕えていた。永享九年に義教の怒りをかって追放され、伏見で没する。
冷泉永基(1377ー1460)冷泉家は御子左流が有名だが、こちらは高倉家の分家。
慈光寺持経(?)宇多源氏
三条実雅(1409ー1467)ー正親町三条公雅の子。足利義教正室尹子の兄。
上様(?)ー足利義教正室の三条尹子。義教には正室として日野宗子、三条尹子が、側室として日野重子(義勝、義政母)、小宰相局(義視母)、少弁殿(政知母)、東御方(長慶天皇曽孫)がいる。
庭田重賢(?ー1487)ー庭田重有の子で幸子の甥。

九日、晴、源宰相が伏見へ下った。明尭禅門二十五年仏事の為に、蔵光菴で七日間看経を行うとのことである。菴で作善を執行する。南御方は今日より精進断酒である。公方より鱸五匹、鮒鮨三桶、菱食一羽をいただいた。東御方の申次で、早速賞味した。永基朝臣と持経が祗候した。一献やっているうちに三条中納言が参った。何事か、急いで対面した。公方の使者として昆布。干鮭の公事を知行せよとの御内書を持参してきた。思いがけないことで、戸惑いもあり、嬉しいことでもある。まずは口頭で返事を申し上げた。特に三献を勧めてその後に帰っていった。直ちに重賢を使者として三条に遣わした。御剣を贈った。大変有難く、喜んでいることを書状で申した。さっそく公方に披露するとのことであった。南御方はほどなく室町御所へ参った。公方には三千疋の折紙(三千疋=300万円ほどの現金を贈るとの目録)、上臈局には二千疋の折紙をそれぞれ贈った。感謝の意を申し上げ、ほどなく帰った。(南御方によると)折紙は返却された(義教らが受け取りを辞退した、ということ)。重ねて贈ったのだが、お礼は必要ないとのことでお返しになられたので、手元に留めた(ということである)。三条への使者の礼は太刀を重賢に持って行かせた。感謝の返事であった。そもそもこの御領(商人からの上納金)は常磐井宮のものであった。この地について去年より公方が不快に思われることがあって没収され、こちらに下さったのである。お気持ちは大変ありがたい。源宰相には急いで帰るように伏見へ人を遣わした。